憎悪と、懺悔と、恋慕。
 
 「木崎センパイは何でお父さんを説得出来ないんですか??」

 『人に指図ばっかしてないで、自分でどうにかしろよ』と付け加えようかと思ったが、何だかんだ怖くて言えなかった。

 自分、情けない。 チキンすぎる。

 「・・・ウチの母親、足が悪くて・・・オカンの耳には入れたくない。 これ以上悲しませたくない。 オヤジと話合った時『離婚を考えろって事か??』って言われてさ。 オレは不倫なんかするオヤジの事大嫌いだけど、オカンはそうじゃないから。 だから・・・」

 木崎センパイが言葉を詰まらせた。

 木崎センパイの気持ちは分かる。 ワタシだって、足の悪い木崎センパイのお母様を悲しませたくはない。 でも、だからって・・・。

 「足の丈夫なウチのお父さんの耳には入れてもいいだろうって事?? 弟は幼いけど元気に走れるから、巻き込んでも問題ないと思ってるんですか??」

 わざと揚げ足を取る。 自分でも、なんて根性が悪いのだろうと思う。 木崎センパイが、そんなつもりで言ったんじゃない事だって分かっている。

 でもワタシだってこんな事、お父さんや弟に知られたくない。
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