未来から来た花嫁 ~迷走する御曹司~
「いえいえ、そのぐらいで丁度良いですよ。こちらの信之も、ご覧の通り大人しい男ですからね」


と返したのは叔父だった。俺が大人しいって?
人からそんな事を言われたのは初めてだが、そうなんだろうか。ん……そうかもしれないな。

確かに俺は無口な方だし、人と争うのは嫌いで一度もした事がない。怒った事はなく、そもそも怒らなくてはいけないような事態に遭遇した事は一度もないと思う。今までのところは。


浅井家は地元で小さな会社をいくつか経営しているとか、菊子さんは絵画が得意で個展を開く事があるとか、歳の離れた妹さんが一人いるとか、そんな話を聞かされ、しばらくして浅井親子は帰って行った。



「信之、良い娘さんじゃないの。あの子に決めなさい」


菊子さん達が帰ると、すぐに母親がそう言った。


「うーん……」

「大人しそうだし、家の嫁として問題ないと思うわ」


母親としては、菊子さんは大人しいから、自分に従順な嫁になって好都合だと考えているようだ。本当の菊子さんはそうでもないのだが、未来の彼女に会ったとは言えるわけもなく、俺は敢えて反論しなかった。


「私も同感よ」

「では、すぐに返事をして進めましょう」

「利家さん、そうしてちょうだい」


肝心な俺が良いとも悪いとも言わない内に、3人は勝手に話を進めようとした。つまり、俺と菊子さんの結婚を……


「ちょっと待ってください」


堪りかねてそう言うと、3人の目は一斉に俺に向けられるのだった。

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