しっとりと   愛されて
マーケの女史とは、常務秘書の香川女史のことだ。

私も名前と顔くらいは知っていた。

彼女は来期社長秘書に上がると噂されていたくらい、有能だった。

期待は外れたけれど、亡くなられた坪井専務の跡を引き継いだ若き専務、私の恋人である堺孝二の秘書に香川女史が選ばれた。

坪井専務が全てを手配していたのだ。

「乾杯!」マーケの男性社員8人と、香川女史、私、の10人で乾杯をした。

女史は巨大な花束をもらってご機嫌な様子だった。

ワインをお代わりしていた。

「椿さん、この人たちには気をつけるのよ。若く見えるけど、中身は皆一緒でエロおやじなんですから。わかった?私からのアドバイスよ。」

「ひっでぇー!俺たち、女史には毎日ケツ蹴られていたよなぁ?」

「んまぁ、なんてことを言うのよ!でも今日であなた達ともお別れだと思えば、何と言われようとたいしたことじゃないわ。ふふふ。」

私は隣りに座った課長のひとり言を耳にした。

「中年常務から若手専務に替わって、さぞご満悦なんだろ?」

私は孝二さんの秘書に抜擢された香川女史がはしゃいでいるのが少し不安だった。

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