過ちの契る向こうに咲く花は
「ほんとうに、時期が来たら解放してくれるんですよね」
「ああ」
「そのあともなにかに巻き込んだりしませんよね」
「約束する」
「……部屋は、別々の個室ですよね」
「もちろんだ」

 体力戦に負けたと思いたい。粘り勝ちされたのだと。
「わかりました。私なんかを選んで後悔すると思いますけれど。あと、さっきの私にとってのメリットの話も、忘れないでください」
 言ってしまった。根負けしてしまった。
 途端にとてつもなく、泣きたい気持ちになってくる。

「交渉成立だな」
 もうこうなったら、一ヶ月の間にそれ相応以上の報酬を金銭以外で要求してやる。
 そう決意すると、伊堂寺さんは立ち上がって靴を脱ぎ始めた。私の鞄は持ったまま。
「お前も、女なんだな」
 半分振り返ってそう笑った。それだけ言ってリビングへと消えていく。

 その場にへたりこみたくなったのは、言うまでもない。
 
< 34 / 120 >

この作品をシェア

pagetop