過ちの契る向こうに咲く花は
 どうしようもなくなって、何気なく時刻表示に目を向ける。既に七時を回っていた。さすがにお腹が空いてきてしまう。いつもなら食べれる残業食も、今日は早めに切り上げたから手をつけることがなかった。
 一体どこに向かっているのだろう。わけがわからないけれど乗っていられるのは、一応相手の身元がはっきりしているからだろう。万が一何か私の身にあったところで悲しむ家族もいない。それに、それなりに名の知られているであろう家の人なら安易なことはしそうにない。
 金で解決する、という方法があるやもだけど。

 せめてお腹が鳴るという赤っ恥だけは回避したい。こんな状況でそんな情けないことを危惧しながら、私はただ車に揺られていた。サイドミラーに映った自分の顔が、疲れきっていてひどいものだった。いくら地味でも瞳だけはしっかりしていたい、そう思っていたのに。

 やがて車はあまり知らない道へと入り、いくつか路地を曲がって大きな建物の前で速度を落とした。周りを見れば閑静な住宅街という言葉がぴったりの雰囲気で、その上建っている家がすべて無駄に大きい。
 伊堂寺さんは無言のまま、その大きな建物の駐車場へと車を進めている。
 もしやと思い慌てて確認した入り口には、よくありそうな豪華系マンションの名前が記されていた。
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