恋物語。
『突然の訪問となり驚かれるのも無理はありません。ですが昨日…知沙さんが怪我をしてしまったのは僕のせいなので…きちんと、ご両親にお詫びを申し上げたくて…。
大事な娘さんに怪我をさせてしまい…大変申し訳ありません。』
聡さんはそう言うと深々と頭を下げた。
『さっ…聡さん…っっ!そこまでしなくていいですよ…っ!!そんな大した怪我じゃないんだし…っっ』
彼の行動に驚いた私は後ろから彼の両腕を掴む。
『そ、そうですよ!
知沙…昨日言ってたけど、ただの靴ズレなんでしょ?って、ちょっと待って…?じゃあ昨日は…井上さんのお家に…?』
ギク…ッ
『はい、そうです…嘘ついて、ごめんなさい…』
聡さんの言葉から…私が昨日お泊りした所が“彼の家”だと悟ったお母さんに私は謝った――。
…という感じでした。
そのあと聡さんは帰っちゃうし、お母さんからは聡さんとの出会いから何から根掘り葉掘り聞かれるし…。
もう、あの日は疲れたよ…。一人で、あんなにいろいろ喋るの…すっごく体力を使った…。
「ぁ…」
待ち合わせ場所に着き聡さんの姿を見つける。
「聡さん…っ」
「あ、知沙。おはよう。」
彼に駆け寄ると聡さんは柔らかな表情を私に向けた。
「おはようございます…」
「ねぇ、」
「え…?」
「“それ”止めない?」
「へ…?“それ”って…?」
聡さんの言う“それ”が分からない。
「…敬語。」
「え…?何でですか?」
“敬語を止めてほしい”という聡さんの真意が私には分からなかった。
だって…出会ってからずっとこれだし…今さら変えろと言われても…。
「せっかく“正式な”彼女になったのに敬語なのはなぁー…って、ちょっと思って。」
「……嫌、ですか…?」
そう言う彼を見て私は不安に陥る。
「別に嫌って訳じゃないよ。知沙がそれでいいなら俺は全然構わないし…だから、そんな顔しないの。」
聡さんはそう言うと、クシャクシャっと私の頭を撫でた。