誘惑上等!

「あれ?全然寝てねーじゃん」


部屋にいる理沙は、ソファ代わりのベッドに腰を下ろして気だるそうにテレビの深夜番組を眺めていた。着ているものが相変わらず洒落っ気のない着古しでクタクタのスウェットだったことが、残念なようなほっとしたような。


「またこれ見てんだ。この毒舌芸人好きだよな、理沙ちゃん。………理沙ちゃん?」


いつもなら『寝てないっていうか、あんたが着信で起こしたんでしょ』と怒ってくるところなのに。


「どーした理沙ちゃん、怒ってる?それとも仕事で疲れた?」


理沙は何も言わずに口を噤んでいる。気のせいかもしれないけれど、その横顔が強張っているようにも見える。


「なあ、何も言ってくんねーとキスするぞ。べろ突っ込むすっげぇやらしいやつ」


冗談めかして言いながら、理沙の隣に腰を下ろす。


構われたがりな性格ゆえ、無視されるくらいなら怒られてしまった方がマシなので、スウェット越しに人差し指で理沙の胸をつん、と突いてみる。理沙はびくりと大きく肩を揺らす。


「悪い、つい触っちった」


激怒されるのを覚悟でへらへら笑いながら、指先だけでわずかに味わった理沙のやわらかい感触を記憶にしっかり刻み付ける。

そろそろキツイお叱りか、強烈など突きを食らわされる頃だ。なのに期待して待っていても、理沙はただ固い表情のままベッドのシーツを握り締めている。


「……おい。ホントに何があったんだよ?今日の理沙ちゃん、ちょっとおかしい……」


言いかけた途中、それに気付いた。








----------匂いがする。


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