解けない恋の魔法
『今晩、一緒に食事でもする?』

 そう誘ってくれたのは嬉しいけれど。
 今、彼の背景で聞こえるざわざわした声が、仕事の忙しさを強調している気がした。

「今日は、私も仕事が立て込んでるので……」

 咄嗟に断りの文句を口にしていた。
 本当は、彼に会いたい気持ちのほうが強いのに。

『そっか。残念だな』

「あ、えっと……この前、香西さんにお借りした服を返したいと思ってるんですけど。私が直接お詫びして返したほうがいいですよね?」

 間接的に宮田さんに返しておくっていうのも香西さんに失礼だと思う。
 ちゃんとお礼が言いたいし、やっぱり直接顔を見てこの間の失態をお詫びしたい。

『あー、あれね。貰っといても文句は言われないと思うけど』

「そんなわけにいきませんよ!」

 香西さんにとっては、適当な服を用意してくれただけで大したことじゃないのかもしれないけれど。
 貰うだなんて、そこまで香西さんに甘えるわけにはいかない。


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