解けない恋の魔法
「もう……行かなきゃ……」

 そうだ。彼は今、仕事中だ。先ほどの場所に戻らなくてはいけない。

「がんばってください。私も仕事に戻ります」

 今の私からは、そんなそっけない言葉しか出てこない。
 かわいくない女だと自分でも思う。

「終わったら緋雪の会社まで迎えに行くよ」

「え?」

「今日、車で来てるから」

 頬を撫でられ、見つめられるとなにも言えなくなってしまいそうだけれど……

「でも、私も何時に終わるかわからないですし……」

「何時になっても待つから。今日のこと、いろいろ弁解させてよ」

 じゃあ、終わったら電話をちょうだいなんてセリフを残し、愛しい人が仕事に戻って行った。

 今の一連の出来事がまるでウソみたいだ。
 ただ、確実に言えることは………

『昴樹くんとは運命の出逢いだと思うから、大切にして?』

 二階堂さんがそう言った言葉が、心に響いて私の頭から離れない。


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