センセイの好きなもの
「りんごがいいー!」

「それじゃあちょっと待っててね。おやつも持ってくるわね」


事務所内には私とみち子さんと煌成くんだけ。吉川先生は悪戦苦闘しながら作成した遺言状を持って、大先生と一緒にクライアントのお宅へと向かった。


「こうちゃん、パパのこと好き?」

「うん…でもパパあんまり帰ってこない。ママが仕事が忙しいからって言ってた」


旦那さんは週のほとんどを浮気相手のところで過ごしていて、ここ数ヶ月は生活費もまともに入れていないらしい。
マンションのローンも知らんぷり。
その為に陽子さんは貯金を切り崩しながら、パートで稼ぐ僅かな収入で煌成くんを養っている。自分の子どもだというのに、愛人のほうが大事だというのだろうか。


「そうなんだ…じゃあ、こうちゃんがママのこと助けてあげないといけないね?」


「お手伝いしてるよ。昨日、ご飯よそったもん!それからタオルもたたんだよ」
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