彼氏人形(ホラー)
その瞬間、「痛っ!!」と、実紗は声をあげた。


「実紗、大丈夫?」


慌てて駆け寄るあたし。


葵君はそんなあたしを開いている方の腕でドンッと押した。


その力は想像以上で、あたしの体は簡単に後方へと飛ばされ、尻もちをついた。


「陽子! 大丈夫!?」


「あたしは平気……」


お尻をさすりながら立ちあがる。


実紗は葵顔をして、葵君の腕を振りほどけずにいる。


葵君の手は傍から見ても実紗の腕に食い込んでいるのがわかった。


「ねぇ、一緒に帰るのはわかったから、もう少し優しく腕を掴まなきゃ実紗が痛いって」


あたしは笑顔を浮かべ、葵君にそう言った。


しかし、葵君はあたしの言葉に耳をかさない。


「うるさい、実紗は俺の女だ」


そう言うと、実紗を引きずるようにして歩き出す。


「実紗!!」


「あたしは大丈夫だから……。陽子、気をつけて帰ってね!」


痛みに顔をゆがめながら、実紗はそう言ったのだった。
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