極上な恋のその先を。

その手は、一度だけ跳ねると、そのまま離れて行ってしまう。


トクン……。


その仕草が……なんていうか、すごく優しくて……。
胸がギュって鳴った。





「あ!久遠センパイ」



……。

真山くんの嬉しそうな声で我に返る。

ハッとして、慌てて身を縮めると、センパイのため息まじりの声がした。



「お前は相変わらずだな……。んで、なんか用か?」

「センパイ、この後予定ありますか?柘植さんと課長と飲みに行こうって事になったんですよ!だからセンパイも一緒にって……。あれ?渚さんとは一緒じゃないんですか?」



ドキ!

なぜか出ていくタイミングを失って。
あたしはそのまま鞄を胸に押し込めた。


こ、ここで出てくと……なんかあからさまな気が……。


どうしようかと悩んでいると、センパイの声がまた遠くなる。



「佐伯はいねーよ。 行くなら行くぞ。俺も忙しいんだよ」

「え?あ、はいっ!」



その声を最後に、パタンと扉の閉まる音がした。



「……」



シンと静まり返るオフィス。

遠ざかる足音と、楽しそうな声。


いまだ冷めやらぬ頬の熱。
いつまでも引くことのないその熱を、あたしはそっと両手で押さえた。



「……キス……出来なかったな……」



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