おにぎり屋本舗 うらら
 


救急車に乗り込むと、すぐに小泉の携帯電話が鳴り出した。



それはSMRの横山から。


逃走中の放火犯、五十嵐を乗せたタクシーが、

国道で捜査一課の敷いた検問に引っ掛かり、逮捕されたと言うものだ。



小泉は安堵の息を吐き出し通話を切った。




救急車はサイレンを鳴らして走り出す。



夜明けを迎えた空に、黒い煙りが立ち上る。



車窓から燃える二瓶ビルを眺めると、

小泉の頭の中に、母親との最後の会話が流れ出した。



『お願い、圭(ケイ)
あれがないと、困るのよ。届けてくれない?』



『母さん、俺、今授業中なんだけど』



『圭の授業よりお母さんの仕事の方が大事なの!

お願い〜今夜はハンバーグにしてあげるから!ね?』



『… はぁ…』




死んだ母親との最後の会話は、高校の授業中に掛かってきた電話だった。



二瓶ビルの炎に、十年前の炎が重なって見えた。


小泉の背中の古傷が痛み出す。


ケロイド状の大きな火傷の跡が、ズキズキと今でも小泉を苦しめている。



十年前の爆弾事件…

カルト宗教団体、破壊の光…



あの時の痛み、苦しみ、両親を失った恨みは、

小泉の胸の中、いつまでも消えることはなかった…




―――――…




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