幸せの花が咲く町で
「手洗い、うがいしてきたよ~!」

「そう、小太郎ちゃんはなんでも出来て偉いわね。
じゃあ、次は……」

「お着替え!」



小太郎ちゃんの部屋は、やっぱり散らかっていた。
片付けようかとも思ったけれど、そこまで立ち入るのはやっぱりどうもはばかられて、やめておいた。
小太郎ちゃんは、この部屋のことをママと僕のお部屋といい、その隣をパパの部屋と言う。
お二人はとても仲良さそうなのに、どうして部屋が別なんだろう?と、余計なことを考えて、頭を振った。
そんなこと、私には関係のないこと。
お二人にはお二人のお考えがあるんだから……



着替えを済ませると、また下に降りて、お花を活けた。
こういうことは仕事柄慣れているとはいえ、お部屋に合った雰囲気にしようとか、より綺麗に活けようとか思うと、逆にやりにくい。
また余計なことを考えてしまったと思い直して活けたら、けっこう良い感じに仕上がった。



「小太郎ちゃん、仏様のお花はどこ?」

「こっち~!」

小太郎ちゃんが案内してくれたのは、リビングの隣の小さな和室だった。



「あっ!」



私は思わず、声を上げていた。
なぜなら、お仏壇に飾られた写真に映っていた女性は、うちのお店の常連さんだったから。
ある時を境にぴたっと来られなくなったから、どこかに引っ越されたのかと思ってたけど、まさか……



「小太郎ちゃん……
この人達は……?」

「僕のおじいちゃんとおばあちゃん。
でも、死んじゃったんだ~……」

「えっ……」



写真の中でにこやかに笑う女性は、お店に来られた時そのままの雰囲気で……
気さくな方で、よくお花の話をしたものだった。
私がまだ入ったばかりの頃は、お花を包むのにももたもたしてたけど、このお客様はそれを少しもとがめることはなく、慌てないで良いのよって言って下さった。



数年前のいろいろなことが思い出された……
お亡くなりになってたと知って、自分でも驚く程、そのことが深く心に突き刺さった。
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