幸せの花が咲く町で




「なっちゃん……」

「あ、優一……
具合はどう?」

「うん、ずいぶんましになった。」

「そっか、よかったね。」



ふと見れば、流しも綺麗になっていた。
なっちゃんがするはずもないし、篠宮さんがごはんを食べ終えてから、片付けもして帰ってくれたようだ。



「あ、あんた、お腹すいてる?
香織さんが、おかゆ作っててくれてるよ。」

「え……」

コンロの上には小さな鍋……
あれがおかゆなんだってことはすぐにわかった。



「ちょっと、もらおうかな。
実は、お腹すいてたんだ。」

「あ、良い良い。
今夜は特別に、私が温めてあげよう!」

そう言ってなっちゃんが立ち上がり、おかゆを温めてくれた。



「卵も入れる?」

「うん、そうだね。」

「たまご入れたら、おかゆじゃなくておじやになるんだっけ?」

「……そうだったかな?」

他愛ないことを話しながら、僕は食卓に着いて、おかゆが出てくるのを待った。
いつもなら僕がコンロの前に立って、なっちゃんがこっちだから、なんだか少し新鮮だ。



「はい、お待たせ!
なっちゃんの愛情入りおじやでございます。
特別価格3000万円です。
あ、たまご代50円はサービスしときます。」

わけのわからないことを言うなっちゃんに、僕は思わず失笑する。



優しい味が、お腹の中に流し込まれ、一口ごとに身体が温もっていく。
お椀の中のおじやは、あっという間に空になった。



「おっ、よく食べられました。
えらい、えらい!」

なっちゃんが僕の頭をくしゃくしゃと撫でる。



「なっちゃん!」

僕が睨んでも、なっちゃんは笑ってるだけだった。
その笑顔を見ていると、僕もつい同じように微笑んでしまう。



「明日からはお迎えも行けると思う。」

「そんな無理しないの!
明日、香織さん、お店が休みなんだって。
だから、もう頼んである。」

「え…でも……」

「まぁ、明日一日くらいゆっくりしときなさいって。
病み上がりに無理しちゃだめだよ。
それに、主夫には休みなんてないんだから、休める時には休んどかないと……」






< 119 / 308 >

この作品をシェア

pagetop