幸せの花が咲く町で
かなり落ち込んだ一日だったけど、その分、良いこともあった。



それは、今後もあそこへ行けること。
あんなことがあったから、きっともうお花の練習は終わりだと思ってた。
もしかしたら、今までみたいに親しく話せることさえなくなるかもって思ってた。



あの後……すぐにでもお暇するべきかと考えながらも、そのことすら言い出しにくくてなんとなく家にいたら、追い返されることもなく、私は一緒にピザまでいただくことになって……
しかも、来週からもお花の練習は続くことになったし、その上、私は咄嗟にお料理を習いたいなんて言ってしまって、その願いは見事に叶えられて……



(……良かった。)



お料理を習いたいというのは嘘じゃなかった。
堤さんは私を料理上手だと思われてるけど、そんなことはない。
私が出来るものは本当に少ない種類の料理だけだし、習ったわけではなかったから、だしのとり方すら知らない。
料理を作るようになったのは、確か中学に入ってまだ間もない頃だ。
それまではお姉ちゃんが作ってくれてたけれど、だんだん家の雰囲気が悪くなって来て、お姉ちゃんもやさぐれてしまって家のことを全くしなくなった。
だから、私がするしかなかったんだ。
小学生の時にも作ったことのあったカレーや、野菜炒めが多くて、家族にはまずいだの、食べ飽きただのさんざん言われたから、料理にはいやな思い出しかない。
それでも、私しか作る人はいないから仕方なく作ってるうちに少しはレパートリーも増えたものの、高が知れてる。
そのうち両親が離婚して、母さんの身体の痛みも少しずつおさまり、精神的にも落ち着いてきてからは、すべて母さんにまかせっきりでもう何年も料理なんて作ってなかった。



どうしてだろう……
離れなきゃいけないって思うのに、思えば思う程、私はあのご家族にひかれていく。
親しくすれば、私の本当の姿もバレてしまうかもしれないのに……
でも、不思議と堤さん御夫妻は、私のことについてはあまり詮索されない。
私のことなんて関心もないんだろう、きっと。



それは少し寂しいけど、でも、その方が好都合だ。
本当の私のことは、そっとしておいてほしい。
いつかはきっとバレるだろうけど、それまでは優しい夢を見させて欲しい。
本当に自分勝手だと思うけど……



そんなとりとめのないことを考えているうちに、私はいつの間にか眠りに就いていた。
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