幸せの花が咲く町で
「あ、まいちゃん、大変!
そろそろ旦那さんが帰って来る時間じゃないの?」

「え……あぁ、そうですけど、今日は……」

「ごめんねぇ、遅くまで引き止めて。
じゃあ、また連絡するから……
今日は本当にどうもありがとうね!」

「あ、は、はい。」



夏美さんのお蔭で、私の嘘はバレずに済んだ。
翔君ママは、奥様にも明日謝ると約束して、帰って行った。
私はほっとすると同時に、小さな罪悪感を感じていた。







「優一、プリンかゼリーある?
あ、アイスでも良いよ。」

「僕、プリン!」

「小太郎、さっきも食べただろう?
大丈夫なのか?」

「うん。大丈夫!」

「篠宮さんは何にしますか?」

「え…では、ゼリーを……」



ひとりだけ何も食べないっていうのもなんだから、厚かましいけどゼリーをいただくことにした。



「香織さん…なんだかだましたような形になってごめんね。」

「いえ、そんな……
おかげで和解出来て良かったです。」

「ありがとう、そう言ってもらえると助かるよ。
まいちゃん、ずっと悩んでたから。」

「そうなんですか……」

そう聞くと可哀想にも思うけど、でも、私だって、堤さんには嘘まで吐いて……
ここに来たくても来れなくて、それがどれほど辛かったことか……



「篠宮さん、ちょっとお訊ねしたいことがあるんですが……」

「なんでしょうか?」

「……お母さんがご病気っていうのは……本当のことですか?」

「えっ……!?」



バレてる……
今度こそ、バレてる。
翔君ママに告げ口されたから、来られなくなって、そのために嘘を吐いたことを堤さんはご存じなんだ……



「ご、ごめんなさい!
あれは…嘘です!
母は……母は特になんともありません。」

「山野さんに、うちには行くなって言われたんだね?」

私は小さく頷いた。
きっと、堤さんは怒ってらっしゃるだろう。
事情はあったとはいえ、あんな嘘を吐いて心配かけて……



「やっぱりそうでしたか……
良かったです。
お母さんがお元気で……」

「え?」

思わず顔を上げたら、堤さんは穏やかに微笑まれていて……



なんて寛大な人なんだろう……
私の嘘を咎めることもなく、そればかりか、お母さんのことを案じて下さるなんて……



堤さんへの愛しさが、またさらに大きく広がった。
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