身代わり王子にご用心



「あら、水科さん。今日の在庫チェックはちゃんと時間内に済ませてちょうだいよ。あなたと違ってわたしには子どもも家庭もあるから、残業なんてしたくないんだからね」


大谷さんの嫌味は今日も絶好調だ。私より5つ上の彼女は、私の全てが気に入らないらしい。


「ま、あなたみたいにろくにお化粧も知らない人には、わたしの大変さなんてわかんないでしょう。どうせ休日も暇でしょう? 店に来て仕事すればいいじゃない。どうせ、大切な用事もデートするような恋人も遊びに行く友達もいないんでしょう? なら、お休みなんて必要ないじゃない」


確かにその通りかもしれないけど、自分で認識することと人から言われるとでは、傷つく度合いが違う。


もちろん、人から言われた方が傷つくに決まってる。


言い返したいけど、言い返せる言葉がない。それに、言い返すと百倍になって返ってくるから、大人しくやり過ごすしかない。


機転が利く人なら軽く交わせるんだろうけど、自分に自信がない私にはとても無理だった。


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