私は彼に愛されているらしい
なんて失礼な奴だ。

そんな態度をとるということはつまり、私は軽視されているということじゃんか。

“あんた男性経験少ないの?”

さっき言われたばかりのセクハラ発言が思い出されて目の前の背中を殴りたくなる。

余計なお世話だ、お察しの通り指が3本しか立たないわよ。本当に図星だから余計に腹が立つ。また竹内くんが明らかに経験豊富そうだから怒りが増幅されるんだ。

「昔の恨みとか言って刺されたらいいのに。」

胸の内の留めておけなくて小さな声で吐き捨ててやった。それくらいしか抵抗できない自分の小ささが露見してさらに空しくなったのは言うまでもない。

「どれ?」

駐車場で尋ねてくる彼に答えず、私はキーロックを遠隔操作で解除した。ハザードの点滅と電子音がその居場所を知らせる。

「いい車じゃん。」

意外にも褒められて嬉しかった。

車の運転が褒められたものじゃない私は軽自動車を買うことが許されなかった。小型の普通車はなんの飾り気も無いままペダルだけがアルミペダルに変えられている。

当然の様に先に助手席に座る竹内くんに最早突っかかる気持ちも無くなっていた。そう、私は諦めたのだ。

「女子らしくない車だな。買ったまま乗ってるって感じ。」

「飾るの好きじゃないの。でも女子力低下防止でクイックルワイパーとかは入れてある。」

ドアポケットからそれを取り出して見せると竹内くんは驚いた表情を見せてから大笑いをした。

良かった、うけた。

ナビされるまま向かったのは何の変哲もないファミレスで、どこがお薦めの店だよと心の中で悪態を吐いたことはばれていない筈だ。

「いつメールが来るか分かんないからな。長居できる場所のがいいだろ。」

聞く前に口にした竹内くんにまたも私は固まった。ばれていない筈だ?

普段なら少し意識する異性との食事も不思議と構えることなく出来た様に思う。仕事の話や同僚の話、他愛のない話をしていたところにメールの受信を知らせる音が響いた。

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