嫌われ者に恋をしました

 他にも何か話しかけたかったが、何も思いつかない。ゴミ箱を置き、何も言えないまま隼人は席に着いた。

 そのまま午後の仕事を始めて、結局何も言えないまま時間だけが過ぎていった。そして定時になると、雪菜は小さく「お疲れさまでした」と言って帰っていった。

 女々しいというよりも、ヘタレだな、俺は。また逃げられると思ったら何も言えなかった。自分がここまでヘタレだとは思わなかった。

 いや、美生(みお)の時だって、女々しくてヘタレだったかもしれない。あの時もショックでなかなか立ち直れなかった。だから忘れたくて仕事に没頭した。

 あの時は、美生を忘れたかったというより、フラれた事実を忘れたかったんだと思う。今はもう、人生そういうこともあるさ、と思える自分がいる。明確に自分は次のステージに進んでいることを感じる。

 でも、雪菜にもフラれてしまった。たかだか食事を断られたくらいで、こんなにダメージが大きいとは思わなかった。

 彼女が母親とやらの影響で人と関わりたくないままでは、何度誘ったって断られるだけだ。

 どうやったら、彼女の壁を壊せるんだろう。強引にいく?でも、彼女を傷つけるようなことはしたくない。

 少し様子を見て、次の監査の後も誘うだけ誘ってみよう。やっぱり、彼女を諦めることなんてできない。
< 84 / 409 >

この作品をシェア

pagetop