イージーラブじゃ愛せない
「こんな所にいたのか」
ふいに声を掛けられて驚いて振り向けば、冷たい風にふわりと髪を揺らした成瀬先輩が。
こんな所に、ってこっちの台詞だわ。せっかく誰も来ない場所を選んだのに。
「探した。胡桃、俺のこと避けてるだろう?」
はい、避けてます。とはさすがに先輩だから言い難い。
「そんなこと無いですよ」
作り笑いをするのは職業上得意技だ。ただし同業にはやっぱりあまり通じないっぽい。
成瀬先輩は私に微笑み返す事も無く
「じゃあ今夜は一緒に帰れるよな」
逃げ場の無い質問で追い詰める。
「今夜はちょっと予定が」
「お前、俺のこと舐めてるのか」
成瀬先輩のしなやかな指が私の肩を強く掴んだ。なんだか今日はやたら肩を掴まれる日だな。
「舐めてないです。ただ、これ以上成瀬先輩と個人的なお付き合いをするのはちょっと」