イージーラブじゃ愛せない


「後腐れなく遊べる子、最高だよね」

「俺ら成瀬みたいにめんどくさい事言わないからさ。これ、後で連絡して」


そう言われてベストの胸ポケットに電話番号の書かれた名刺を無理矢理入れられそうになる。


「いらないです」


重い脚立を持った状態では咄嗟に逃げられず、上体を捻っただけで男の手を交わした。

その動きのせいで、胸ポケットを目指していた男の手が偶然私の胸に触れる。


「わ、でかいね。胡桃ちゃん」


おい。偶然のタッチとは言えこれセクハラでしょ。しかもこんなに大勢人がいる所で。


けれど、人が多すぎると却って不審な私たちのやりとりは目立たず、誰もこちらに気付いていない。


変な欲に火の着いてしまった男は下心のよく出た笑顔を零すと、今度は私の腕を掴んでから無理矢理に名刺を胸ポケットにねじ込もうとした。


みなさーん、ここにセクハラ男がいますよー。白昼堂々、後輩にセクハラしてますよー。

って、大声で叫んでやろうかと思った時だった。


「何してんすか」


名刺をねじ込もうとしていた男の手を後ろから掴んだのは、さっきまでショボくれてた“元”親友。


私と男たちを交互に見て、一瞬唇を引き結んだジョージの表情に

――……なんであんたが助けにくんのよ

わずらわしい気持ちが込み上げた。





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