現代のシンデレラになる方法



そして師長は切々と、相澤さんへ訴えた。

「……あんた達には分かんないでしょうね。こっちは忙しい中でも小さなミス一つ許されない中で仕事してんのよ。下手に医療ミス起こしたら裁判沙汰になるプレッシャーなんて分かんないでしょ?」


師長は決して自分達だけが楽をしたくて事務長に訴えたんじゃない。

忙しい中でいつミスを起こしてもおかしくない状況が続いていることを危惧しているのだ。

師長は働く私達、看護師を守りたかったのだ。

だけど、それは相澤さんにあたることじゃない。


「たかが看護師って言うけどね、あんたらだってたかが事務員じゃない。何もできないくせに、好き勝手言ってくれるわよ」

「た、たかが看護師なんて思ってませんっ。私は、おっしゃる通りただの事務員ですが……、」


相澤さんは、心外だとばかりに言い返した。
おぉ、ちゃんとこの子も自分の意見言えるもんなんだな。


「ここで働く、看護師や医師、薬剤師に栄養士、PT、OT、レントゲン技師、検査技師、皆さん特別な資格がないとできない仕事です」

指折り数えながら、師長に訴える。
こんなにちゃんと話してるところ初めて見たかも。


「だから何?」

「病院は、そんな特別な資格を持った人にしかできない仕事がたくさんあります。私は、そんな病院で働く皆さんを心から尊敬しています」


相澤さんはたかが看護師なんて思っていないことを伝えたいのか必死のようだった。

その様子は師長にも伝わったようで、相澤さんの言葉にちゃんと耳を傾けている。


「私には直接患者さんを助けることはできないけれど……、患者さんを助けることができる皆さんの下で、少しでもお手伝いができることをとても光栄に思っています」


そしてその言葉は、ナースステーションにいてこっそり盗み聞きしていた私達看護師の心にもしっかり届いた。


昨日最底辺な女を見てきたから言えることかもしれないが。

本当に良い子なんだと実感した。

いつもおどおどしてるだけかと思ったら、そんな気持ちで働いてるなんて知らなかった。

東條先生が可愛がるのもなんだか頷ける。


以前冷たくあたっていた看護師達もこれにはちょっとバツの悪そうな顔をしている。

だっていじめていた相手に、尊敬してる、一緒に働けて光栄だなんて言われるとは思ってもみなかっただろう。


しかし、私もそれに加担していた1人だ、冷たくあたられていたのを見て見ぬふりしていたのだから。



< 87 / 196 >

この作品をシェア

pagetop