じゃあなんでキスしたんですか?



「そこをなんとか! 桐谷さんの、インタビューを、どうしても次号に、載せたいんです」

「そんなの、そっちの勝手な都合だろ」
 
三階分を駆け下りたあたりからわたしはもう息が切れていた。日頃の運動不足がたたって、足がもつれそうになる。

それでも勢いのまま前を行く背中を追いかけた。

「お願いします! わたし、今回がはじめてで、記事に穴をあけるわけには――あわっ」
 
滑りの悪い床につま先をとられ、気づいたときには身体が浮いていた。

「わっ、ばか」
 
スロー再生したような世界の中で、踊り場を回ろうとしていた桐谷さんの顔がこわばる。

わたしの手から離れた資料の束が、規格外の大きな紙ふぶきとなって、宙を舞う。
 

落ちる――
 

目をつぶった直後、全身に鈍い衝撃が走った。
でもそれは、想像していたよりもずっと柔らかな感触で、一瞬にして背筋が凍りつく。
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