冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
流されるばかり




それからの展開は、驚くばかりの速さだった。

我が家と紬さんの家族総出の結婚式の準備が、私の意志は無視されたままで進められていった。

既に決まっていたらしい日程と場所を聞き、その日に向けて体調を整えておけと、おじい様に言われただけで、詳しいことは何も聞いていない。

私の意見が必要な時にだけ呼び出され、あれこれ聞かれるだけで、事の詳細はまったくわからない。

私が招待したい友人たちのリストを用意させられ、それを紬さんが式場に届けたり、婚約指輪やマリッジリングも紬さんが好みの物を選んだ。

気付けば、私の左手薬指には、紬さんの趣味全開の婚約指輪が光っている。

何故か私の好みにもぴったりの小ぶりのダイヤが三つ並んでいる指輪は、悔しいけれど、お気に入り。

マリッジリングは結婚式当日のお楽しみだと言ってまだ見せてもらってないけれど、きっと私の好みに沿ったものだと安心している自分を不思議に思いながらも。

周囲の慌ただしさに巻き込まれた私には、戸惑ったり深く追求する余裕もない。

「だけど、やっぱりおかしいよ」

『お見合い』から始まるお付き合いには、その向こうに『結婚』が控えているとはわかっていたけれど、どうしてそんな流れに私が巻き込まれてしまったのか、頭がついていかない。

それに、まるで何かに追われるように急いで段取りを調える家族や紬さんを見ては違和感を覚えている。

どうしてこんなに急いで結婚しなければいけないんだろうかと、何度か聞いてみたけれど。

『俺が瑠依を好きになりすぎて早く自分のものにしたいから』

さらりとそんな甘い言葉を返されてばかりだ。

ごまかされているような、何か隠されているような気がしてならない反面、私自身もその流れに追われるように忙しくて。

慌ただしい日々を過ごしている。


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