世界でいちばん、大キライ。
時間も心臓も、何もかも止まったのかというような感覚が走る。
なんの音も聞こえない桃花は、目を大きく見開いた状態で乾いた唇を震わせた。

「どういう……意味、ですか?」
「オレに、父親重ねてみてただけだろ」

相変わらず桃花の目を見るどころか顔すらも向けないまま、久志が淡々と続ける。
その間に、桃花は唇が切れるほど噛みしめて、手のひらに爪を食い込ませた。

「じゃなきゃ、こんな歳の離れたオッサンなんか――……っ?!」

そして、その手で久志の黒いジャケットの襟を強く引っ張ると、不意打ちでバランスを崩した久志の唇へ、強引にかさついたままの唇を合わせた。
桃花の手から、先程久志に渡されたチャームがふたりの足元へと落ちていく。

目を剥いた久志に構うことなく、両手で襟元を掴んだまま至近距離でぽそりと呟く。

「……普通、父親に、こんなことしたいって思いますか?」

説明しにくい、この感情。
焦り、苛立ち、もどかしさと悲壮感。

どうしようもない思いをぶつけるようにキスをした桃花は、心の中で絶望する。

(『好き』を何度言っても、届かない)

『じゃあどうしたら』と混沌とした脳で考える。
真正面から受け止めて、それを拒絶されたのならもっと違う気持ちになっている気がする。
こんなふうに締め付けられるような、息苦しい感覚になるのは、きっと久志(相手)が本心を曝け出してもいないから。

本当の声を聞いていないと感じるから。
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