世界でいちばん、大キライ。
冷めたココア


土曜日から3日経ったある日。
桃花はいつもと同じようにソッジョルノに店員として立っていた。
引き立ての豆の香り。エスプレッソの抽出音、スチームミルクが泡立つ音。

それらは全て今まで通りで、何ら変わらない日常。

桃花がコトリ、とテーブル席の客にカフェラテを提供し終え、トレーを脇に抱えて振り返った。その時、小気味のいいドアチャイムの音と同時に店の扉が開かれる。

「いらっしゃいま、せ」
「モモカ~! 会いたかったヨ」

桃花の語尾に被せるように、長い両手を広げながら近づいてきたのはジョシュアだ。
咄嗟にトレーを突き出してガードするような態勢になってしまった桃花は、気まずい目をジョシュアに向ける。

「つれないなぁ。そんなにオレのこと、キライ?」
「ぃやっ……キライとかそーいうんじゃなく……」
「突然現れて抱きつこうとしたら、誰だって警戒するだろう?」

ぼそぼそと赤らめた頬で弁解に困っていた桃花の代わりに、カウンターから了がフォローする。
ジョシュアは眉を上げて軽く息を吐くと、そのままカウンターに浅く腰を下ろした。
すると、阿吽の呼吸とでもいうのか、了がすぐにジョシュアの前に水を置いた。

「ああ、thank you」

それを待っていたかのように、ジョシュアは一気にグラスを天井に傾けて飲み干した。
桃花はその横顔が見える位置に立ったまま。
ジョシュアの喉が上下するそのワンシーンに目が奪われていると、桃花の視線に気づいてちらりと綺麗な瞳を向けた。
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