世界でいちばん、大キライ。
「いー加減、イラつくよなぁ……自分でもそうなんだから、お前とか、周りの人間はそれ以上だろうな」

久志の独り言を、背を向けている麻美はしっかりと聞いていた。
久志が出かけた後もずっと気になって起きていたのだから。

初めて強がったり取り繕ったりしない久志の本音を耳にしても、麻美はそのまま寝たふりを続けていた。

傍にいたから、なんとなくわかる。

大体にして、寝ていると思っていたとしても、自分相手にこんな真面目に自分の本心を曝け出すようなことをすることはなかった。だから、麻美はもう何も言わずに黙っていた。

何か変わった久志を感じて――。

「麻美が目ェ覚ました時は、また怒鳴られるんだろうな」

失笑しながら最後にそう呟いて、久志は麻美の部屋から出て行った。
足音が遠くに行ったのを確認してから、そろりと頭を回し、ゆっくりと体を起こした。

まだ下がらない熱で頭の中はボーッとしている。
元々ハッキリしない逃げ回るような性格の久志ではあるが、今のこの状況は自分が足を引っ張っているように思える。

自分の勝手な判断でメールを見て消去し、約束の当日である今日、こんな高熱に見舞われて、考えていたことを遂行できず。
それどころか、この体調だと、2、3日は迷惑を掛けそうな状態だ。

今、久志が自由に動けたなら、きっと桃花の元へ走り出しているのではないか。それが出来ないのは、自分がこんなふうに寝込んでいるから……。

子どもなりに、麻美は自分の失態を心から嘆き、悔しい気持ちで唇を噛んだ。

今の自分が出来ることは、早く元気になること。

あとはもう、ふたりに任せるしかない。

祈るような思いで目をきつく閉じ、麻美はその後なかなか寝付けず、何度も寝返りをうちながら夜が更けていった。

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