世界でいちばん、大キライ。
ワケあり少女


あれから約一週間。
至って普通の、日常生活を送っていたのだが、桃花にとっては金曜日までがとても長く感じていた。
もちろん、その理由は自分でもわかっている。

ようやく待ちわびた金曜の今日、桃花は平静を装いつつ、内心ではそわそわと落ち着きなく業務をこなしていた。

オーダーも途切れ、閉店時間まで1時間を切ったときは、溜まっていた洗い物を無心でする。
……いや、正確には〝無心〟を心掛けながら、というほうが正しいかもしれない。

すると、キィ、とカフェの扉が静かに音を上げながら開いた。

「いっ、いらっしゃいませ!」

いの一番に来客に気付き、顔を上げた桃花だが、手元が忙しいときでレジに立つことは叶わなかった。

ここではテイクアウトも可能だが、店内を利用するにせよ、まずはレジでの注文・清算というスタイルだ。
そのため、レジで客の意向を聞くまでどちらなのかわからないのだが、今そこに立つ相手の動向は聞かずとも予測出来る。

「マンデリンを」
「マンデリンひとつ、ですね。本日も店内でお召し上がりでよろしいですか?」
「はい」

その会話のくだりをわかっていた桃花は、すでに洗い物を中断してドリップの準備をしていた。
おそらく仕事後の一杯。毎週来てくれて、毎回同じものを注文する。

もしかしたら、彼にはこの店もこのコーヒーにも特別な感情など一切なく、ただ単に通り道だから、と来店しているかもしれない。
まだ未熟なバリスタではあるけれど、そういう種のプロとして。
桃花は一定の味を再現して、『ああ、この味だ』と一日を終えてもらえたらいいなと自然と思う。
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