世界でいちばん、大キライ。
一歩踏み出した矢先に、了に呼び止められる。
振り返り、視界に飛び込んできたのは一通の手紙。

「えっ?」
「直前に渡してほしいって預かってたんだ。あの可愛い女の子に」

驚いて手を伸ばせない桃花に、了がそっと手に握らせる。

「中に入ってから読むといいよ」

薄い黄色の封筒は可愛らしい花模様で、了の言葉もあって、それがすぐに麻美からのものだとわかる。
うれしい思いにもう少し浸っていたかったけど、時間が迫っているために手紙を開かずに桃花は中へと移動した。

手荷物検査を終えて、ベンチに腰を下ろす。
電光掲示板にある時計で時刻を確認して、まだ少し余裕があることを確かめると、麻美の手紙に手を付けた。

【桃花さんへ
あっという間に桃花さんがシアトルに行く日になっちゃったね。短い時間だったけど、すごく楽しかったです。それに、ヒサ兄にも少し優しく出来るようになったし、桃花さんのおかげだな】

(そんなことないのに)

くすりと手紙に笑いを零して、麻美の可愛い文字の続きを目で追う。

【本当は見送りに行きたかったけど、平日だっていうし、仕方なかったので手紙にしました。ヒサ兄にも『ひとこと書いて』ってお願いしたんだけど……】

「えっ……」

手紙の内容に思わず声を漏らしてしまった桃花は、左右の人を確認して、身を竦めながら手元にまた視線を落とす。
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