世界でいちばん、大キライ。
ただのヒマつぶしでも興味本位からでもなく、真剣に聞く姿勢の麻美に押されて後退りしてしまいそうだ。
よくわからないが、その麻美の圧に負けてバカ正直に桃花が言った。

「……どっちも、私……かな。相手をおろそかにしてた……っていうか……」

こんなこと小学生に話していいものなんだろうか、と思いつつも、桃花の思考は過去へとトリップしていく。

過去、ふたりの彼氏がいたが、どちらも長続きはしなかった。
簡単に言うならば、自分と相手とどちらが大事か、という質問をもしもされたときに、即答できずにいたから。
それが、当時の彼氏には不満でしかなく、その温度差ですぐにダメになった。

桃花にとって、コーヒーと英語に費やす時間はなににも代え難く、かといって彼に対して愛情がなかったわけでもない。
しかし、若さゆえなのかお互いの器量の問題なのか。
それを受け入れられることはなく、そしてまた桃花も追いかけるまで至らなかった。

そう遠くない過去をカフェラテの表面に思い出すようにしていると、麻美が頬づえをつきながらココアのカップに向かって静かに言葉を落としていく。

「……ヒサ兄はね。あたしが原因で別れたんだ」
「……え?」

目を合わすことなく、独り言のように言う麻美の言葉に呆気に取られた桃花は思わずカップを落としそうになる。

桃花の視線は気付いているが、やはりその視線に応えることもせずに淡々と麻美は続けた。

「ヒサ兄は隠してるけど、わかるよ、そういうの」

久志の過去は気になるものだが、その内容が恋人のこととなると話は別だ。
微妙な気持ちに苛まれる桃花は心が乱れる。

「それが原因かもしれない」
「原因……?」

恐る恐る聞き返すと、そこで初めて麻美が真っ直ぐと桃花を見た。

「ヒサ兄が、自信持てない原因」

気付けば息をしていなかった。
麻美の話の意図がすぐには汲み取れなくて。

しかし、すぐに桃花の頭にはこの間の夜の久志が浮かぶ。
自信がなさそうと言えば、それに当てはまるような言動と表情だったようにも思えて……。
だとすれば、今の麻美の話から総合すると、久志が何かを引き摺っているのは女性についてなのかもしれない。

それは特段おかしなことではないはず。
いい歳した独身の男だ。女性関係のひとつやふたつで何かしらあるかもしれない。
桃花はそう言い聞かせるようにするが、やはり簡単に割り切ることも出来なくて。

けれど、麻美はそれ以上この件についてなにも口にすることはせず、桃花もまた、何かを聞き出すことなど出来ずに。
見事に切り替えていつもの顔に戻ると、前回同様英語のテキストに向き直っていた。

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