世界でいちばん、大キライ。
麻美にしたら、せっかく心許せる久志の恋人候補が現れたわけだ。
未だに久志に対しては独占欲に似た感情を捨てきれずにいるけれど、それが桃花相手だと思うと、今までの気持ちが嘘のように吹っ切れる。

直接久志の周りの女性を見たりしたことはほとんどないが、先刻の電話はなんとなく女性相手のような気がしてならない。
そこら辺は、小学生と言えど、〝女の勘〟というものが働いたらしい。

気が細かい久志だが、女性が好意を抱いて近づいていることなどには全く無頓着。

麻美が知る例で挙げれば、学校行事に顔を出した久志に対して、同級生の保護者である若い母親の一部や、独身で久志と歳が近しい教師なんかは明らかに態度が違って見えた。

元々久志のことが好きな麻美にとって、そういう空気にはとても敏感。
ゆえに、すり寄るような上目遣いと、さりげなさを演出した軽いボディタッチなんかに嫌気がさしていたのはそう遠くない過去のこと。

久志に興味があるから、その延長で自分にやたらと声を掛けてくる人たち。
あからさまに『狙ってます』っていうような雰囲気が、ものすごく腹立たしかった。

そういった点からも、桃花はそれまで近づいてきた女たちとは違うと感覚で理解しているから。

そんなことを総合して考えていた自分にハッとして、後方の時計を見上げる。
待ち合わせ時間が何時だかまで聞いていない。

「んもうっ! バカ兄ッ!」

麻美はとりあえず桃花を待ちぼうけさせるのを避けたくて、バタバタと家を飛び出した。

(とにかくあたしが会って……それで、またうちに連れてくればいいんだ!)

急く気持ちでエレベーターに乗り込むなり、麻美はそんな考えに達する。
小走りで久志に言われたコンビニをひたすらに目指す。
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