王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~

それは"他の誰か"がウェンディだからなのか、"別の男"がキットだからなのか。

どちらにせよ、これまでのウィルフレッドのことを考えると、喜んでいいことなのではないかとふたりは思う。


「ま、俺らは俺らで、ブルーローズをとって来なきゃだしな」


ラズベリーを得るまでのタイムリミットは、8日目の日が昇る13時間前だ。

根を詰めて平行線を辿るより、ウィルフレッドの言うように、薔薇園を散歩してみるのもいいだろう。

いざラズベリーを得たときのためにも、はちみつとブルーローズの用意をしておかなければならない。


キットもそう結論付けたようで、まだ座ったままのエリナに手を差し出す。

『甘く香しいはちみつにブルーローズの花びらを一枚浸し、銀色の月夜を三晩眺め、恋する乙女は涙を流した。溶け出し空色に輝くそれにラズベリーを加え、13時間の後、禁断の青い果実は完成されたり。』

エリナはウィルフレッドの書斎で読んだ歴史書に書かれた一説を思い出しながら、キットの手を取った。


(この熱が、どうか失われることがありませんように)


胸の奥ではっきりとそう願いながら、キットと共に青い薔薇の咲く園へと向かう。

その願いが、『キットに出会ってしまった情からくるもの』という言い訳では説明がつかないくらい、切実なものになっていることを感じながら。
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