王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~

最後に弥生のか細い声がそう言ったのを聞き届けると、開いていた窓を閉め、カーテンをぴっちりと閉じた。

ふらふらとベッドまで戻り、倒れ込むように突っ伏す。


元はと言えば、弥生が作った禁断の青い果実を食べたせいで小説の世界に入り込んでしまって、泣きたいほど帰りたかったはずだ。

元の世界に戻るには、もう一度禁断の青い果実を食べなければならないとわかって、そのために材料を集めようとしている。

はちみつとブルーローズはもう既に手の中にあって、ラズベリーだって、エリナがその気にさえなればすぐに自分のために使えるようになるだろう。


(だけど……ここには、キットがいる)


エリナは枕に顔を押し付けて、ギュッと目をつぶった。


小説の中といえども、五感はすべてエリナ自身のものだし、身体も心も瑛莉菜のままなのだ。

そしてエリナの心が本当に求める相手は、おそらくここにいる。


(もし……ここに残ることを選んだら……?)


それがありえないことだとはわかっていても、小説の中の人物としてキットと共に生きることを、どうしても考えずにはいられない。

現実と虚構の境い目は、一体どこにあるのだろう。


グルグルと考え事をしながら眠りについたエリナがその晩夢に見たのは、力強く優しい腕て抱きしめてくれる彼と一緒にいる未来だったかもしれない。
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