王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
「だいたい、兄貴は小説の作者だろ。てことは、小説の中に入った俺らを救えるのも兄貴しかいないだろ」
「救うって、どうやって!」
「そんなの、兄貴が決められるんじゃねーの? 小説の作者って、物語ん中じゃ神様だろ」
稀斗が事もなげに言うのを聞いて、弥生は鳩が豆鉄砲をくらったようにぽかーんと口を開けた。
小説の筋書きを決められるのは全て弥生なのだから、弥生になら小説の中に入った瑛莉菜を救えるということらしい。
「……はあ、なるほど」
瑛莉菜が姿を消すのを見てから半分我を失っていた弥生だったが、突然熱が冷めたように妙に納得してしまった。
「ん? でもそれなら、稀斗が宇野ちゃんを追いかける必要もなくない?」
「……うるせーな、とりあえず本当に小説の中に入るのかどうか試すんだろうが」
稀斗は首を傾げる弥生に強引にそう言い置いて、適当に床に転がっていた弥生愛用のノートパソコンを拾い上げる。
(んなもん、黙って見てられるかってーの)
瑛莉菜がどこへ行ってしまったにしろ、追いかける以外の選択肢はない。
なぜか、その他のことは考えられなかった。