王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
彼女がいるのは立派な庭園で、そこが王都にある自分の主の別邸だということがわかった。
そして自分の主がウィルフレッド・ランスという人物で、公爵という爵位をもつ乳兄妹であり、明日には王宮で舞踏会が開かれるということも。
ウィルフレッドは今、国王に呼ばれて城へ出かけているはずだ。
すべて自分の記憶にはないことのはずなのに、思い出そうと思えばすぐにできた。
雨が止んだばかりなのか、庭園に咲き誇る花々や木々は水滴を纏い、日の光を浴びてきらきらと輝いている。
空は高く青く、白い雲が漂うだけで、背の高いビルは見当たらない。
季節は春頃のようで、時折吹く柔らかい風は草花の芽吹く香りを運んできた。
どれも瑛莉菜が体験したことのない景色で、それでいて彼女にはよく馴染んだ心地よい景色だ。
青々と色づく草を踏み、側にあった水溜りを覗き込む。
(……違和感がないなんて、変なのに)
彼女の目に映ったのは、深い緑色の、地味だが仕立てのいい侍女服を着てエプロンを身に付けた自分の姿だった。