王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~

(え……あれ……?)


しかしその炎がキットの瞳の中で実体を持って大きく揺れたのを見たとき、金縛りにあったように彼を見つめていたエリナはハッとしてキットの腕を放した。

大きく目を見開いてキットの目に映る炎に息を飲み、そこから視線を引き剥がして振り返る。


キットの視界には暗い窓の外も入っているはずだが、怒りで頭に血が上り、ランバートだけを睨み付けているキットには見えていないのかもしれない。


突然顔色を変えたエリナにキットとランバートも怪訝な顔をしたが、それには構わず、窓辺に立つランバートの身体を押し退けた。


窓から暗い中庭を見下ろし、目を凝らす。

探すまでもなく、エリナは外に見えた光景に喉を詰まらせた。


「火が……!」


舞踏ホールの灯りと淡い月の光に包まれた庭園に、煌々と燃え上がる赤黒い炎が見える。

キットの瞳に映り込んでいたそれは、庭の奥にある小さなラズベリー畑を焼き尽くし、勝手口を伝って本館へと燃え移っていた。
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