不機嫌なアルバトロス
電話っていうのは、緊張する道具だと思う。

相手の声が耳元で聞こえるんだから。

一昔前では、電話で繋がるということは高価なことだった。

その前には文通というものがあって。

それから、メールというものができて。

今はリアルタイムで顔を見ながら話ができたり、文字での会話ができる。



…面と向かって、その人の温度や、空気を感じながら話をしなくなったのは、いつからなんだろう。


朝から自分にとって小難しいことで頭を悩ませながら、顔を洗った。


そんなことはどうでもいいから、つまりは中堀さんにどうしようということなのに。


ぽかっと自分の頭を軽く殴った。


電話は緊張するとか、顔を見ないで話をするのはどうとか、色々言い訳を考えているけれど、


要は会いたい。


彼に会いたいのだ、私は。



だけど、佐藤一哉には会いたくない。


彼は本当の彼じゃない。


じゃ、どこで会ったら、本当の彼に近づけるか?



いつもよりすこーしピンクの多いコーディネートを無意識の内に選びながら、セーターに腕を通す。



クラブだ。


クラブに行けば、きっとあの日の彼に会える。


本当の彼に会ったら、、、


私のこの気持ちに名前をつけよう。


ちゃんとした、確実なものになったなら。


認めてあげよう。




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