不機嫌なアルバトロス
支度を整えて玄関を出ると同時に携帯が震えた。



「誰だー?」



鍵をがちゃがちゃ言わせて閉めた後、急いでコートのポケットに手を突っ込む。



「はいはい!」



表示を確認せずに、通話ボタンを押して耳に当てた。




《おー、元気になったみたい?声は嗄れてるけど》




ドキリ。



冷たい風に耳がじんとする。



さっきまで感じていたそれが、急に静かになった気がした。




「なか…ぼり、、さん…」



《違うな。お兄ちゃん、だろ?》



少しのからかいを含んだ声。



《ケホッ…今夜、志織と出かけるんだけど、乃々香も一緒に行く?》



私はどもりつつも、急いで答える。




「いいいかない!」




行かなくて良いなら、誰が行くか馬鹿!と心の声を大にしながら。




《んーん、行くの。》



楽しそうに笑う声が続けて聞こえた。



なら最初から聞くなよっ。



がくっと携帯を片手に、その場に脱力する。




《なんだけど、ね、今回は俺等は最初に食事とか済ませていくから。乃々香は途中で会うことになるんだ。偶然を装ってねー。》



「ちょ、え、どうして?」



《あれ、一緒にご飯食べたかった?》



「ち、違いますっ」



《ま、そーいうことだから。そうだなぁ。今夜8時40分頃、中央公園の噴水前の歩道を、銀行側から歩いてきてくれない?》




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