シンデレラの落とし物
「そう」

「んー気にならないといったらうそになるよ。でも、プライベートっていってたし、そこはそっとしておいたほうがいいかなぁって。旅行って自分探しだったり、癒しだったり、日々を忘れることだったり、目的はさまざまあると思うのね。だから、旅先に来てまで聞かれたくないこと、あれこれ聞いても不快な思いさせるだけじゃない? でも、詩音くんの話しはちょっと聞きたかったかなぁ」

「詩音、くんね」

眉間をピクリとさせてどこか面白くなさそうな秋の反応に、美雪は無邪気に笑った。

「じゃ……オレ、そろそろ電車に乗る時間だから駅に向かわないと。美雪ちゃんはこのあとどうするの?」

「わたしは早めに空いてるホテルを探そうかな」

「………」

つかの間、考え込むように秋が黙り込んだ。

「明日は?」

「とくに決まってないけど……」

「よし、旅は道連れだ」

輝く笑顔で、耳を疑うようなとんでもないことをいいだした。

えっ!?

「行こう!」

えええっ!?

手を掴まれ、半ば引っ張られるように立ち上がる。

「えっまっええっ秋くん!?」

わたしにいま何が起きているの!?

繋いだ手はそのままに、軽やかな足どりで前をいく秋の大きな背中を美雪は必死に追いかけた。
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