むとうさん
私はよそって冷めて硬くなった肉をぐすぐず噛んでいた。

「で、どうだったの。極道とのセックスは。」
「しー!お昼だから!…ていうか、何もしてないよ。」
「え?!ディナーして、ハグしてその後何もなかったの?!」

私はこくこく頷いた。

奈津美ははーっと溜息をついた。
「あんたたちねぇ…ていうか、据え膳食わない男もなんだかねぇ。」
「…別に据えてないもん。だからむとうさんは大切な知り合いなの。すごく真剣で、素敵な人間なんだよ。」
「うーんまぁそんなに慶子が素敵っていう男の人だったら見てみたいね。」

ポテトの薄切りをオリーブオイルで素揚げしたものをパクパクたべながら言う。

「ていうか、むとうって変わった苗字だよね。」
「え、そうかな。」
「んーあんまりいなくない?ぱっと漢字が思いつかない。武藤かな?と思うけど。」

確かに。考えたことなかったけど。どこか私の知り合いにむとうさんがいたのかもしれない。
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