毒舌紳士に攻略されて
落ちてしまったかもしれない。
突然現れた坂井君に先輩達はもちろん、部署内の残っている数名の社員も言葉を失っている。
そして琴美も。

そんな私達の元へ不機嫌そうにゆっくりと近づいてくる坂井君。

目の前には坂井君がいるというのが、いまだに信じられない。
そもそも坂井君がこうやって総務部に来ること自体初めてだし。それに今、間違いなく坂井君は私のことを庇ってくれているんだよね?

その事実も信じられない。

だって昨日の夜、素っ気ないメールしたくせに。
きっと私のことなんて、ただの暇つぶし程度にしか思っていなかったんでしょ?もう飽きちゃったんでしょ?

さっきから皮肉めいた可愛げのない考えばかりが頭の中を駆け巡る。
だけどただ駆け巡るだけなんだ。
だって本音を言えば、単純に“嬉しい”から――。

また同期会の時のように助けてくれたのが、嬉しいから。

なぜか涙が出そうになってしまった時、坂井君は先輩達の前で立ち止まると、さっきまであんなに不機嫌そうな顔をしていたというのに、急に気持ち悪いくらいの笑顔を見せた。
< 174 / 387 >

この作品をシェア

pagetop