誤解から始まる恋もある?
『もしかして、怪我がひどかったのかな?』
「ち、違います。それほどひどくはありません。単なる捻挫だったんですが、湿布の匂いのせいでレストランの仕事は数日無理かな、と……」
『ああ、それは仕方ないよ。責任者に伝えておく。労災で申請するから』
「はい……」
『そんなに落ち込まないで』

軽い口調で慰めてくれる。“近所のお兄ちゃん”に戻ったみたい。

「お客様は大丈夫でしたか?」
『ん? ああ——』

電話の向こうで誰かに話しかけられたようだ。なにかを話しているくぐもった声が聞こえてくる。

『あ、ごめんね。夕樹菜ちゃん、今晩空いているかな?』
「え?」
『一緒に食事でもどうかな、って。レストランのみんなも来るよ。二十二時にサンセットホテルのロビーに集合ね』

奥様のいる男性と遅い時間にふたりきりになるのはよくない、と一瞬その誘いに驚いたけど、レストランのみんなも一緒だと聞き安心して行く気になる。

集合が二十二時と遅いのは、レストランの仕事を終わらせてから集まるためだろう。

「はい、わかりました。サンセットホテルに二十二時ですね」

サンセットホテルはこのクイーンズパレスホテルよりは小規模だけれど、ホテル内のレストラン“かりゆし”は沖縄料理がおいしいと有名で観光ガイドブックにもよく載っている。

“かりゆし”とは沖縄の方言で“幸多かれ”という意味だ。

二十五時まで営業しているので、飲み会などで利用することも多い。

私はその後、金城副支配人の指示に従って一度家に戻り、約束の時間を待つことにした。

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