メランコリック
「藤枝サンさぁ、杉野マネージャー狙ってんの?」


ひとりが冷えた声で言った。

女子は声色は相手によってがらりと変わる。
杉野さんの前ではいつも甲高い声をしていたから、彼女の気持ちは「そう」なのだろう。

なるほど、嫉妬だ。

きっと、相良が伝えたのだろう。彼女たちの嫉妬を煽ろうと。
わかりやすいいじめが好きな彼らしい。
相良の追及を退けたかったとはいえ、「噂を広めてもいい」なんて言うんじゃなかった。


「狙ってるとか、ないですよ」


私は答えた。
妻帯者とどうにかなる気はないから、これは本心だ。
淡い恋心くらいは許してもらいたい。勝手に好きなだけなのだから。


「嘘つけよ、キモ女」


「あんたが杉野マネージャーに色目使ってたって聞いてんだからさ」


色目って、スケバンか、あんたたちは。
古いよ、言い回しが。

でも口答えしてこの問答が長くなるのは嫌だった。
手足がガタガタ震えだしている。
全身を濡らす冷水が私の体温を簡単に奪っていく。
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