夫の顔
 外に出ると、意外にあったかい。家の中の方が寒いんだ。グッチのピンヒールでコツコツとアスファルトを鳴らし、ゴミ捨て場にゴミを出す。オハヨウゴザイマス。笑顔で言ったものの、誰? とりあえずご近所さんには笑顔で挨拶しないとね。だって私は『いい隣人』だから。
駅まで歩いて五分。途中で幼稚園だか保育園のお送りのママやパパにすれ違う。いつも思う。私って、どう見られてるんだろう。二十五で結婚して十五年。結局コドモはできなかった。
自分で言うのもなんだけど、四十にしてはキレイにしてるほう。このママさん達、きっと私より若いけど、きっと私の方がイケてる。だけど、なんとなく、独身なんだ、いくらキレイにしても、独身なんだ、私にはこんなにかわいい子供がいて、パパがいて、幸せなのよ、って言われてる気がする。いや、独身じゃないんだけどね。独身みたいなもんだけど。そんな気がするから、余裕の目で見てやるのよ。若いのに、そのオナカとオシリ、大変ねって。オケショウくらい、もうちょっとしたらいいんじゃないって。
ああ、いつからこんなに性格が悪くなったんだろ。ああ、元からか。ちょっと、そこ、ジャマだから。なんで歩道で喋るわけ? 通れないでしょ? ああ、イライラする。
 八時四十分に駅について、八時四十七分発の電車に乗り、九時十五分に電車を降り、九時二十三分にタイムカードを押す。都会の時間は分刻みなのね。私はこの分刻みさが大好き。都会を感じるから。
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