Sugar&Milk

「次のシフトがまだ出ないんで、俺から連絡します。LINE交換してもらっていいですか?」

私も慌ててスマートフォンを出す。お互いにスマートフォンを重ね、『中山瑛太』がともだちに追加された。

「橘朱里さん……」

中山くんがLINEに登録されている私のフルネームを呟いた。顔だけじゃなく名前まで知られて緊張する。こんな簡単に連絡手段を提供してしまうなんて危機意識が薄いかもしれないけれど、なぜかこの子には心を開いてしまう。

「あいてる日が分かったら連絡します」

「はい……」

「すっげー嬉しいです! ありがとうございます!」

「いえ……」

嬉しそうな彼の顔に思わず私も笑顔になる。
次の駅に停まると中山くんは「それじゃあお休みなさい」と降りて行った。電車が動き出すとホームから満面の笑顔で手を振り、見えなくなるまでその笑顔を崩すことはなかった。

始終彼のペースに巻き込まれていた。異性に、しかも年下にこんなに余裕のなかったことは無いのに、連絡先の交換という難易度の高いことをしてしまった。初めての事態に落ち着かない。悪気のない強引な態度に疲れたけど嫌じゃなかったな、なんて電車の中で一人ニヤけてしまった。










中山くんのLINEのプロフィール画像は居酒屋らしきお店で友達とグラスを持つ姿が写っている。

やっぱり大学生……だよね……?

自分といくつ年が離れているのか気になってしまう。お酒を飲んでいるということは20歳以上ではあるのだろう。
就職してしまうと友人とも疎遠になり、プライベートで新しく連絡先を増やす機会は少なくなっていた。LINEなんて仕事関係の人ばかり。それが大学生とだなんて自分でも驚いている。

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