Sugar&Milk
「ここです」
中山くんに案内されたのはワインとパスタを売りにしているお洒落なお店だった。店内は女性のグループやカップルが多い。予約していたらしく、店員に名前を告げると窓際の席に案内された。
「中山くんはワイン詳しいの?」
「実はあんまり……でもここ女性にも飲みやすいワインがたくさんあるってクチコミにありました」
「お酒はよく飲むの?」
「カクテルとか、炭酸割とかしか飲めないです。あんまり得意じゃなくて」
「まだ飲めるようになったばっかだもんね」
「正直に言っちゃいますけど、女の人が好きそうなお店を選んでかっこつけようとしました」
本当に素直な子だ。飾らない態度に少しずつ緊張がほぐれていった。
「じゃあ一緒にワインを開拓しようか」
「はい!」
中山くんは笑顔で頷いた。
「ごちそうさまでした……ごめんなさい、出してもらっちゃって」
「いいんです。誘ったのは俺ですから。この間のお礼も兼ねて」
会計は全部中山くんが払った。私は正社員で働いているのでどう考えても大学生より稼いでいるのだが、中山くんは断固としてお金を受け取ってくれなかった。大学生に奢られてしまって申し訳なくなる。
駅まで並んで歩いた。改札が見えてきた頃、中山くんは足を止め私を見た。
「あ、そっか、中山くん家この近くだもんね。駅までついて来てもらってごめんね」
中山くんは駅から歩いて数分のアパートに一人暮らしをしているらしい。そしてこの駅から1駅のカフェまでバイトしに通っている。
「あの……橘さん」
「はい」
「俺はもっと橘さんと会いたいです。カフェ店員とお客様って関係以上に」
私は何も言わず中山くんの言葉の続きを待った。