Sugar&Milk

私が聞き取れていないと思ったのか、女の子は繰り返した。

「待っていられても、いないですから」

突き放すような言い方だった。
閉店作業中に店の前に立たれても迷惑という意味だろうか。それに焦った私は思わず「知ってます」と冷たい口調で返してしまった。
私と瑛太くんの関係を知っているようだ。だとしてもこの態度は如何なものか。この間から私は何か失礼なことをしただろうか。それとも閉店作業の最中だから店に近づく私が邪魔だったのか……。

「私、中山くんと同じタイミングでお店に入りました。もう1年近く一緒に働いてます」

「えっと……そうですか……」

そんな説明に何と言葉を返したらいいのか分からない。

「中山くんの良いところも悪いところも、私はたくさん知っています」

「…………」

「中山くんがお姉さんと付き合っているのってちょっと意外です。彼はしっかりしてるから、甘えるよりは甘えられたい方かと思ってたのに」

この言葉に私はやっと理解した。この子は瑛太くんが好きなんだ。だから瑛太くんと付き合っている私にケンカ腰になる。

「えっと……」

どう言い返すのが正解なのだろう。瑛太くんと付き合うのは不自然だって言われては私だっていい気分じゃない。でも年下の子にムキになって言い返すのも大人の対応とは言えないし、瑛太くんのバイト仲間と悪い関係になりたくないという思いもあった。
迷った末に「瑛太くんの意外な一面は私だけにしか見せないのかも……」と言うのがやっとだった。女の子は不機嫌そうな顔になり「ならいいです」と言うと店内に入っていった。

何、今の……。あの子にこんな態度をとられるのが本当に理解できない……。

混乱したまま突っ立っていると、頭上のシャッターが下りてきてお店の入り口からガラスの壁を徐々に塞いでいく。

「危なっ!」

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