Sugar&Milk
◇◇◇◇◇



「もう無理ぃー……」

そう不満を吐きながらイスの背もたれに体重をかけ、腕を思いっきり伸ばす。
今日はずっとデスクワークで肩が凝ってきた。時間は既に定時を過ぎている。先月の給与明細の残業代がすごいことになっていたから、きっと今月も同じような感じに違いない。嬉しいような悲しいような。

瑛太くんに会いたいな……。

ぼんやりそう思った。瑛太くんはクリスマス前でバイトが忙しいと言っていたから遠慮して会うことを避けている。私も仕事が忙しいものの、何度もLINEを開いて連絡しそうになる。
気付くと右手の薬指に嵌めた指輪を触っている。瑛太くんとお揃いの指輪をその日のコーディネートに合わせて職場にもつけていくようになった。思い出したように触ると瑛太くんを身近に感じることができた。

彼氏とお揃いのアクセサリーは初めてで嬉しい。普段は右手だけど時々外して左手の薬指にも嵌めてしまう。そうして照れてすぐに外すのだ。
左手に指輪を嵌めることなんてあと何年先だろうか。瑛太くんはまだ大学生。きっと私との未来なんて現実味がないだろうし、考えもしないだろう。私もそんなことを望んではいけないと思っている。
瑛太くんのことは大好きだ。でも5年後10年後の私たちは想像できない。

「お疲れー」

山本と武藤くんが営業先から帰ってきた。コートを脱いでイスに掛けた山本は「マジで外寒い!」とぼやく。
世の中の大部分の人はクリスマス前の賑やかな雰囲気を謳歌しているというのに、私は残念ながら山本と武藤くんとで残業していた。

「さっきカフェ行ってきたよ。橘さんの彼氏に僕も顔覚えられてた」

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