Sugar&Milk

「いやほんとに……気にしなくていいですから……」

「俺、中山瑛太(なかやまえいた)です。よければ……ご飯でも行きませんか?」

「え?」

再び名乗られたことに戸惑ったけれど、誘われたことにはもっと戸惑う。
中山という子は顔を真っ赤にしている。それは私も同じだ。もしかしなくてもカフェのバイトくんに何かしら気に入られているの?

「あの……」

中山くんが勇気を振り絞ってくれているのは分かったけれど、正直怖かった。いきなりの誘いの意図が分からない。しばらく困惑して黙っていると「すいません、いきなり……困りますよね」と中山くんが小さな声で言った。

「気を悪くしたなら謝ります……すいません!」

中山くんは深々と頭を下げた。

「いや、とんでもないです……」

そんなに謝らなくてもいいのではないか。誘いに乗らなかった私の方が悪いことをした気になってしまう。
中山くんはもう一度私に頭を下げると慌ててカフェの中に入って行く。それを確認して私も早足で会社へと向かう。
彼の態度に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。もっといい対応ができたかもしれないのに、突然の展開に頭が真っ白になってしまった。ぼーっとしたまま会社へ向かって歩く。

最後に男性と二人で食事に行ったのは就職して仕事に慣れてきた頃だ。大学からの付き合いの彼氏との食事を楽しんでいたのに、その場で別れ話をされた。職場関係以外での食事が嫌な記憶で終わっているから、こんな気持ちを抱くのも久しぶりで戸惑った。
あれだけのことで食事に誘われるのも変だし、多分あの子は年上の私をからかったのかもしれない。










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